Story

心に闇を宿す愚かな生き物  
  ── 人間は、瞳から光を失った


深い深い闇の中、道を見失い、絶望に打ちひしがれた人間は、ある日、淡く暖かい光を宿す「蛍」と出会う。蛍は人間に光を与え、共に生きていくことを決めた。

しかしこの醜く汚れた世界で、蛍は日に日に数を減らしていく。それでも人間は僅かな光を求めて蛍を狩り、金の為に蛍の生活を乱す。


── 嗚呼、人間はいつまでも光を求めて飛び廻り、やがて命尽き果てる、悲しき羽蟲なのだろうか。


第一楽章:蛍

かつて多くの蛍が飛び交い、自然に溢れた美しき村「花鶏(あとり)」。盲目の青年・灰羽(はいばね)は、花鶏に住む義眼医の男・漆黒(しっこく)を尋ね、旅を続けていた。背中に停電した蛍の少女・ネムを乗せて。千匹の蛍と契約し、不死の肉体を得た漆黒は、二匹の蛍、柩(ひつぎ)・橘(たちばな)と契約を交わしながらも、「蛍を愛せない」と笑う。そして「自分の命が尽き果てても、蛍を助けたい」と懇願する灰羽に興味を持ち、「灯屋(あかりや)」の運び屋として迎え入れることになった。花鶏での生活が始まって一ヶ月。西の高台から花火を打ち上げ、花鶏に梅雨明けを知らせる「出梅(しゅつばい)の夜(よる)」と呼ばれる行事の主賓を半ば強引に押し付けられた灰羽は、雨の中、ネムを連れ西の高台を目指すことに。しかし、そこで待ち受けていたのは……?

第二楽章:宴

梅雨が明け、花鶏に夏がやって来た。出梅の夜、人と蛍の悲しき絆に反応して溢れ出したネムの「光」を受け、ほんの一瞬、その瞳にネムの姿を焼きつけた灰羽は、停電が原因で失われたネムの過去に興味を抱く。しかし漆黒に「お前は女がつけられた傷を癒してやれるほど出来た男か?」と一蹴されてしまう。停電は蛍の心の病気。そして心を蝕まれ、光を落としてしまったネム。蛍と人間の関係について悩む灰羽の元に舞い込んで来たのは、花鶏一の金持ち一家・花葉(はなば)家との見合い話。お互いを想うが故に傷つけ合ってしまう灰羽とネム。そして灰羽のお見合い相手、蜉蝣(かげろう)の夜白(やしろ)と、謎の蛍・桎 (あしかせ)。すれ違う人と蛍の思いは何処へーー。

第三楽章:命

花鶏が誇る真夏のくじ引き大会で「家族四名様」ご招待の旅行券を引き当てた柩。橘、ネム、漆黒と共に赴いた観光地・水の都「水鶏(くいな)」では、鎖紺(さこん)と名乗る蛍が率いる旅の一座「ナナホシ」による蛍達のショーが開かれていた。鎖紺が操る光を浴び、深い眠りについてしまった橘。蛍が魅せる幸せな幻影、覚めない夢の中で、橘は漆黒とは違う家族と「再会」する。一方、家族旅行に参加出来ず、一人灯屋に取り残された灰羽の前に、一人の少女が姿を現す。漆黒が奪った千の魂、蛍の珠(ぎょく)を回収しにきたと告げる蛍・李朱(りしゅ)の目的とはーー?


第四楽章:棺

ーー「漆黒様に、家族を返したい」。

李朱に奪われた蛍の珠を取り戻すべく、単身灯屋を離れた柩。千里眼のクロの手によって滅ぼされた蛍の街・千鳥の再建と、柩の解放を望む李朱の背後には、蛍の願いを叶える「世界樹」と呼ばれる存在・梔の姿があった。漆黒の妻・紫音の心臓を食べ「躯蛍(むくろほたる)」となってしまった柩の、閉ざされた過去には、人と蛍が紡ぎ出す悲しき闇と不協和音が入り乱れていた。蛍の光を信じ、全てを明日へと託した紫音。様々な想いが込められた「橘」の名。全ては、棺に納められていた。

第五楽章:涙

千切れた家族。千切れた絆。橘を亡くし、両腕を失くし、骸という闇から解き放たれ、漆黒の墓として生きられなくなった柩が、「家に帰る」という選択をすることはなかった。かつての契約者である、罪人・弥緑(みろく)が処刑された連雀(れんじゃく)という地で、自らも罪を償い、蛍としての人生を終わらせようと考えた柩。しかし、そこで出会った揚羽(あげは)の少女・茜とその蛍である楪(ゆずりは)から、弥緑の蛍への想いを知らされる。一方、二匹の蛍との契約が切れ、蜉蝣(かげろう)に戻った漆黒。「ここに光は届かない」と語る漆黒の想いを受け止め、灰羽は寝たきりのネムを連れて灯屋を出ることとなった。そこでようやく目を覚ましたネムだったが、漆黒や柩、橘のこと、灯屋で過ごした夏の日々、そして人と蛍のもたらした悲しい結末から目を背けるように、彼女はすべてを忘れてしまっていた。灰羽は、幸せ溢れる花鶏の夏祭り会場を通り抜け、「すべてを忘れてしまってもいい。それでも一緒に生きていきたい」と、十七年間の想いを告白する。しかしそこで、ネムの「答え」を聞き出すために現れた・梔(くちなし)と一片(ひとひら)によって、ネムの停電した記憶が巻き戻ってしまう。「海って何色だったっけ?」涙の意味は、ネムがかつて契約した人間達――そして彼女が愛した青年・青明(せいめい)との思い出の中に隠されている。

最終楽章:光

――その日、全ての人間は、瞳から光を失った。灰羽、ネム、漆黒、柩、橘。人と蛍が探し求め、そして見つけた答え。夏の終わりに、全ての想いが交錯し、やがて眩い光となって、世界に降り注ぐ。羽蟲重なるオーケストラ、これにて、閉幕。


旋律、零。

これは――蛍を必要としない最果ての地・斑鳩(いかる)で起きた物語。息子である灰羽にすら自分の正体を隠し、暮らしていたネムは、ある日、お腹を庇うようにして蹲る蜉蝣・緋影(ひかげ)を見つけ、家に匿うことに。しかし、彼女を追う秋沙(あいさ)の研究員・紅楽(くらく)によって、ネムが蛍であることを暴かれてしまう。目を瞑り、全てを視界に入れずに刀を振るう強き女性、緋影の真意。そして、大切な物を守る為に強くなりたいと願う灰羽。オーケストラはまだ響かない。だが、人と蛍の切なく儚き、まっすぐな想いは、確かにここに眠っている。

未完成ノ、音。

名無し指の約束